【シネマチュプキ】田端の文化遺産として、何があってもこの場所を残す-代表・平塚千穂子さんインタビュー

※この記事は田端本のクラウドファンディング企画のリターンとして取材をさせて頂いたものを掲載しております。

”―――風が吹けば、枯葉が落ちる。
―――枯葉が落ちれば、土が肥える。
―――土が肥えれば、果実が実る。
こつこつ、ゆっくり。
人生、フルーツ。”

映画『人生フルーツ』より。

私が初めて、東京都北区にある唯一の映画館「シネマ・チュプキ・タバタ(以後チュプキ)」で観た作品は『人生フルーツ』でした。これは当時87歳と90歳になるご夫婦の生活に密着し、その暮らしぶりを撮影したドキュメンタリー映画で、日本中のミニシアターでロングラン上映された名作です。

田端在住歴30年の夫に連れられて、初めてチュプキの世界に入り込んだ時、私はこの映画館が在ることの意味をほとんど分かっていなかったように思います。

今回改めて取材をさせていただくことになり、チュプキの代表である平塚千穂子さんが、その10年間の活動をまとめた書籍『夢のユニバーサルシアター』を拝読。この場所ができるまでの壮大な物語を目の当たりにし、電車の中で涙をこらえるのに必死でした。

お話を聞きながら頭の中に流れたのは、この映画の冒頭に流れる「こつこつ、ゆっくり。人生、フルーツ」という樹木希林さんのナレーション。

平塚さんがこつこつと積み上げてきたものが、瑞々しいフルーツという贈り物のような形で返ってきた、チュプキという小さな映画館。オープンから4年経った今と、これからについてお話を伺いました。

誰もが当たり前に映画鑑賞できる場所を目指して

チュプキは2016年9月に、田端で産声をあげました。元々代表の平塚さんが、視覚障害のある方でも映画鑑賞ができるように、と立ち上げた団体『City Lights』の代表だったこともあり、ここチュプキは、視覚や聴覚に障害がある方でも、映画を楽しめる施設となっているのが特徴です。

座席は20席ほどの小さくてアットホームな館内

たとえば上映される映画は、洋画でも、邦画でも、すべての映画に日本語字幕がついています。これは聴覚に障害のある方に配慮された仕組みで、他にも音と連動して振動するクッションなども用意されています。

また視覚に障害のある方は、映画のスクリーン自体を観ることができません。そんな方のために、セリフだけでなく、場面が切り替わるタイミングや、情景の説明などを吹き込んだ、「音声ガイド」を聞きながら、映画鑑賞ができるようになっています。

座席に取り付けられた音声ガイド

さらにここは、こうした障害のある方だけではなく、普段は子どもが小さくて映画館に行くことのできないお父さんやお母さん、そして車いすの方など、様々な方に配慮されたユニバーサルシアター。まさにチュプキが目指しているのは「みんなのシアター」なのです。

他の方を気にせず、親子でゆっくり鑑賞できるスペースも

全国どこを探しても、全編日本語を字幕表示している映画館は、ここだけだそうです。

(より詳しい映画館の情報は、以前書いたこちらの記事を読んでみてくださいね。https://www.tabatime.net/chinemachupukitabata/

4年。想像以上にチュプキを大切にしてくれる人が増えてきた

ーチュプキが、ここ田端にできてから、早4年。4年の間に、きっと良いことも、悪いこともいろいろあったかと思います。

うーん。あんまり悪いことは引きずらないタイプなんで。今思い浮かぶのは、いいことばかりだったかな。ここを始めて数年経って、近所の方だけでなく、この映画館自体のファンになってくださる方がじわじわ増えているなぁという実感があります。

ただ一方で、元々視覚障害を持つ方のサポートをずっとやってきた背景があるので、その縁が強いのはあったんですけれど、なかなか聴覚障害者や車いすの方などとのネットワークは薄いということはあったんですね。そういう方にも映画を心地よく鑑賞してもらうためにはどうしたらよいかということには、いろいろと苦労したかなぁ。

代表の平塚千穂子さん

毎回日本映画にも日本語字幕をつけるんですが、苦労して作ってもお客様がなかなかいらっしゃらないこととか、そういうこともあったので、ユニバーサルシアターの難しさはいろいろと感じていました。

でもアニメを上映し始めたりした頃から、作品が入り口になってここを知って……という流れもできてきました。それからコロナが蔓延し外出自粛要請が出始め、これから先の不安を感じていた時、聴覚障害がある方から「字幕付きはここだけだから、観に来た時に、どんな作品にも字幕が付いているのは安心感があります」といううれしい声も寄せていただきました。

思っていた以上に、ユニバーサルシアターということも浸透してきていたんだなぁということと、たとえ自分に障害がなくても、「こういう場所は絶対に大切にしていくべきだ」と賛同してくださる方も増えてきたような気がします。そういう手応えは、月日が経つごとに感じていますね。

見えないエネルギーが、コロナ禍のチュプキを救ってくれた

ー2020年、新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発表されてから解除されるまでの約2か月間。休業されていて不安もあったかと思いますが、どのように過ごされていたんでしょう。

正直、もう少し休業期間が長くなるんじゃないかと思っていました。なのでzoomやYoutubeライブを活用して、ライブ配信で映画を紹介しつつ、作品の監督と話す、トークイベントを開催したりしていました。とにかく「忘れられちゃわないようにしないと!」と必死でしたね。

あとは「シネマチュプキのドタバタTV」っていう番組を作って、ここの立ち上げの頃の昔話などをオンラインでしたりとか。これは2回で終わってしまったんですけどね(笑)。

そんなことをしながら、発信をとにかくしようとしていました。

ほかにも、映画館が閉まっているのにも関わらず、サポーター会員に入会してくださったり、グッズ購入をしてくださったりした方がものすごくいらっしゃって。ありがたいことに寄付金も多くいただきました。

館内にはグッズや書籍の販売も行われている

グッズはTシャツがメインなんですけれども、私が書いた書籍や、スタッフが編んでくれたブレスレット、過去の周年記念で作っていた在庫なんかもね、全部。スタッフの宮城さんがショップサイトをリニューアルしてくれたおかげで、皆さん買ってくれて。

チケット会員になってくださった方がいらっしゃる、ということはその時の私たちからしたら「再開したら見に行くよ」というメッセージに聞こえるんですよね。

休業したころは先が見えなくてどうしようって思ったんだけど、そういう支援や見えないエネルギーに助けられました。私たちが想像していた以上に「この映画館を残してほしい」と思ってくれている人たちがたくさんいたっていうことは、本当に支えになりましたね。

町中の人を巻き込んで、映画を楽しむ入口を増やしたい

ー本を読ませていただいて感じたのですが、平塚さんは本当にバイタリティがありますよね!コロナ禍で時間ができた中で、何かこれから新たにチャレンジしたいこととかできましたか

本当にね、私は無知なんだけど、勢いだけはあったんだよね。すべてがトライアンドエラーで、エラーしても離脱しないで、試行錯誤しながらもゆっくり進んでいくっていう……。

さすがにこの場所を決めるときだけは悩みましたけどね。お金もものすごくかかるし。

でもまぁ、長年の活動と、それを求めている人たちがいるっていうのを、確実に分かっているのが大きかったですよね。

入り口には大きなチュプキの木。葉っぱ1枚1枚に、オープン当初のクラウドファンディングに協力してくださった方々の想いが込められている

これからは、もっと横のつながりを作って、この場所や映画というものをきっかけに、田端だけでなく、北区民の方が楽しんでいただけるようなことをしていきたいですね。

例えば商店街を占拠したり、小学校の校庭などの屋外を使ったりして映画上映をしてみたいです。そのときは近所のいつもお世話になっているサンドウィッチ屋さんや田端や荒川区の飲食店の方々に出店してもらったりなんかして。

あとは、近隣の施設とのコラボレーション。田端は有名な小説家が多く暮らしていた街として有名で、田端文士村記念館という、芥川龍之介の直筆の原稿などが保管されている施設があるんですよ。

文士村さんとコラボして、施設で芥川龍之介の企画展をしているときに、チュプキで羅生門の映画を音声ガイド付きで流す、とか。

これまでは地域の方と一緒に何かをする、ということはまだまだできていなかったので。この映画館を見守ってくれているこの街の人を巻き込んで、楽しいことを仕掛けていけたらいいなぁと考えています。

映画館という場所は、決してなくしてはいけない

ー映画館は約2か月間の閉館を経て、ようやく再開されましたね

まだまだ安心しきれない状態ではあるので、気をつけながらの営業スタイルにはなるんだけども……。

やっぱり、この休業中に、チュプキだけでなく、どれだけ「映画館」という場所が大切な場所なんだということかを、改めて感じさせてもらったんです。

映画館とは、日常を一度シャットアウトして、良い作品と出会い、その作品が描く世界に没入できる場所。自分をリセットするきっかけにもなります。

そんな映画館という場所で大切な時間を使ってもらうために、作品選びはもちろんですが、居心地の良さなど、私たちにできることは何なのかを改めて考えました。

一人ひとりの人生にとって、ものすごく貴重な時間をここで過ごしてもらうんだから、という意識を忘れずに、これからもやっていきたいなぁと思います。

また来てもらえる時には、本当にすべてが安心で、みんなでげらげら笑えるような作品をやりたいなぁと思いますね。

そして絶対存続させるぞ、と。

今は1席開けながらの営業だけど、また満席でみんなで映画を観られる日がくるまで。

是が非でも残しますよ。田端の大事な文化遺産として、ね。

**

私が「田端」という街に住み始めて早2年。

人懐っこい人や、優しい人が多いと感じることはこれまでも多くあったけれど、平塚さんの朗らかさと明るさ、そしてこのチュプキという場所が、日本中の方々に愛されている場所だということ。

そんなことを知ったら、また、田端が好きになりました。

平塚さんとその周りを支える多くの方々が、決して諦めず、コツコツと灯し続けてきたチュプキという名の光。私も一人のサポーターとして、微力ながら支え続けていきたいと思います。

※この記事は田端本のクラウドファンディング企画のリターンとして取材をさせて頂いたものを掲載しております。支援していただきありがとうございました。

店舗情報

CINEMA Chupuki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)
住所:東京都北区東田端2-8-4 マウントサイドTABATA
アクセス:田端駅北口から徒歩5分
営業時間:10:00〜23:00(水曜定休)
チケット料金:一般 1,500円/シニア(60才以上)1,100円/学生・ユース(22歳以下) 1,000円/中学生以下 500円
TEL:03-6240-8480
ホームページ:http://chupki.jpn.org/

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