伝統と技術を脈々と受け継ぐ、堀川鋳金所の職人親子に鋳物作りを教わってきた

熱で溶かした金属を型に流し込み、成型していく金属工芸「鋳金(ちゅうきん)」

その歴史は古く、日本では弥生時代から続くと言われています。 そんな伝統的な鋳金を家族で守り続けること100余年。東京の下町にある堀川鋳金所では、器物や像などに代表される美術品や建築物のプレート、装飾といったあらゆる工芸品を手がけてきました。 まさに“職人”にしか生み出せない仕事です。

しかし、堀川鋳金所では少しでも鋳金を身近に感じてもらおうと「鋳物(いもの)作り体験」を行なっているとのこと。 え? 全くの素人でも鋳物って作れるものなの? というわけで、今回は堀川鋳金所で鋳物作りを体験してきました。

リピーター続出の鋳物作り体験

▲『堀川鋳金所』外観

西日暮里から徒歩6分の場所にある堀川鋳金所。職人と聞くと、頭にタオルを巻いた頑固なオヤジが出て来そうですが…

ここで鋳物作りを教えてくれるのは、堀川鋳金所三代目の松本隆一さん

…良かった、優しそうだ! ちなみに隆一さんは1988年の日本工芸展での入選を皮切りに様々な工芸展で賞を受賞されている一流の職人さん。 また、息子である四代目の松本育祥さんも数多くの工芸展で入選・受賞され、自らも精力的に展示会を行なっています。

しかも、お二方とも荒川区無形文化財(工芸技術)に認定されており、なんと2008年の日本伝統工芸展本展では親子で入選を果たしているんですって!“この親にしてこの子有り”ってところでしょうか。

「体験」とは言いつつも実際に鋳物作りが行われる工房は、松本さんたちの作業場。プロの職場でプロの道具を使い、プロに教わります。そういった意味でも貴重な「体験」なんですね。

なお、体験は予約制となっており、鋳物は「箸置き」「ぐい呑み」の2種類から選べるとのこと。ちなみにリピーターになると自分でデザインした鋳物も作れるそうです。 それでは、さっそく鋳物作りを始めたいと思います。

緻密な“生型”作り

今回、僕は「ぐい呑み作り」を教わることにしました。 まず初めに金属を流し込んで行く「生型」と呼ばれる型枠を作っていきます。いきなりですが、みなさんは型枠って何で作ると思いますか?

正解は砂です。しかし、ただの砂ではありません。堀川鋳金所では非常に細かい、しっとりした「鋳物砂」を使用。松本さん親子もこの砂を使って型枠を作り、金属を流していくそうです。

幼い頃の砂遊びみたいで楽しいなぁ〜!

隆一さん「小野さん、ここは重要な工程なんです。一見、地味な作業かと思われますが、あとで流し込んでいく金属が漏れないようにしっかりと押し固めてくださいね」

といったように、体験中は作業工程を優しく説明してくれます。少人数制だからこそ、付き切りで見守ってくれるのも安心ですよね。

とはいえ、ミスをしてしまうのが人間。僕のように不器用な人が失敗をしてしまっても松本さん親子は直ぐに修正してくれます。

隆一さん「初めての方は工程を覚えるだけでも精一杯です。失敗してもしまっても砂なのでやり直しましょう」

なんて頼もしい親方なんだ。シンプルな工程にも関わらず、一つひとつの工程に意味がある生型作り。きっと人生も同じだってことを隆一さんは教えてくれたのだろう。そんな気がする。多分。

緊張の一瞬!錫の流し込み

型が完成したらメインの作業でもある“錫の流し込み”です

「たまに合金化されている『本錫』っていう錫もあるのですが、うちでは99.9%の純度を誇る『純錫』を使っています」

と育祥さん。昔から使う素材・道具にはこだわりを持っているとのこと。

それでは緊張の瞬間です。300℃近くまで熱した錫を型に流し込んでいきます。溶けた錫がこんなにもトロトロになるとは、まるでターミネーター2の敵みたい。

冗談はさておき、流し込む錫は直ぐに固まってしまうのでスピードが肝心とのこと。その上、失敗も許されないため慎重さも重要なんですって!集中…集中…。

錫が固まったことを確認した後、いよいよ砂の型から鋳物を取り出します。固まったとはいえ、錫はまだまだ高温なので水で冷却しながら洗っていきます。

最後に電動ノコギリで余計な部分をカット。もう、ここまでくれば完成も間近ですよ。

職人の技が光る研磨の技術

ようやく、ぐい呑みの姿が手元に。ここからは仕上げの工程、研磨に移っていきます。ヤスリ掛けの技術は、口当たりや見た目に大きく影響するんだとか。なかには、この作業に5時間もかける体験者の方もいたそうです。

みなさんお待たせしました。こちらが完成した、ぐい呑み(右)になります。ちなみに左は育祥さんの作品。

…当たり前ですが、同じ作り方をしても全く美しさが違いますね。流石は職人さんです。

知られざる鋳金の世界

目的の鋳金作りを体験してきましたが、あまり職人さんと話せる機会ってないですよね。というわけで、育祥さんに鋳金所での仕事についてお話を伺ってみました。

「ぐい呑みと普通のグラスで飲むのでは、味に違いがあるんですよ!」と出来立てのぐい呑みに日本酒を注いでくれた育祥さん。

——ん! 言われてみれば美味しい気がする!

「それは良かったです。どこか味に“甘さ”や“まろやかさ”を感じますよね? 実は化学的に証明されているわけではないのですが、金属の荒い部分が水をこし取るんじゃないかって言われているんです。それに「錫」は熱伝導が良いので器自体が冷えやすく、多少の保温効果があるので日本酒には最適なんです。もちろん、錫には毒性がないので安心してください。」

——そんな効果があるとは! 育祥さんは、子どもの頃から職人を目指していたのですか?

「いえ、違いますよ。元々、大学時代はインタラクティブアートやWEBデザインを学んでいたので仕事もWEB系や写真スタジオを目指していました。しかし、世の中は就職難だったんですよね。だから、仕方なく、就職先を探しながら家業を手伝うことにしたんです。でも、鋳金の仕事をしていく内にだんだんと鋳金に魅力を感じ、いつの間にか展覧会にも出展するようになったんですよ。もう気が付いたら10年目です(笑)。まぁ昔から親父の背中を見ていたのでモノづくりに興味があったことは事実ですけどね。」

——今って鋳物作り体験以外では、どんなお仕事をされているんですか?

「メインはデパートで作品を売る傍ら、注文を受けた品物のパーツを作っています。また、展示会などが近いときは作品作りも注力していますね。」

▲文部科学大臣賞を受賞した作品

「だから最近は休みを取っていません。平日は依頼を受けた作品作り、土日は今日のような鋳物作り体験が入っています。ありがたいことですよね。というのも、僕たちは作りたい物を作って売るアーティストではありません。もちろん生活がかかっていますし、売れなくなったら廃業を考えています。だから、そうならないためにも日々、依頼を受けては勉強し、そして技術を磨かなきゃいけないんですよ。」

——日々仕事を受けながら、職人として鍛錬もし続けなくてはならない忙しい日々を送られているんですね。それでも体験作りは続けるんですか?

「やはり鋳金って伝統工芸を知ってもらいたいですね。僕は「手作り」ってことに大きな意味があると思っています。実は今日の体験料を払えば、僕の作った「ぐい呑み」も買えるんですよ。でも、お金を出して作るわけじゃないですか? それは、きっとお金ではない“想い”を自らの手でカタチにできるってところに喜びを感じられるからだと思うんです。これは鋳物作りに限らず、手作りのモノに共通しています。ただ、その中の一つに鋳金があるってことを知ってもらいたいんです。」

今回の鋳物作りでは、ただ鋳物の作り方を教わる体験ではありませんでした。隆一さんには伝統技法を間近で教わり、育祥さんからは改めて手作りの魅力を教えていただきました。ありがとうございました。

日本を代表する金属工芸、鋳金。結婚記念日、誕生日など大切な誰かへの想いをカタチにしてみませんか? 世界で一つの贈り物に相手はきっと喜んでくれることでしょう。僕も今日できた、ぐい呑みは父の日に送ろうと思います。

取材協力:堀川鋳金所
住所:〒116-0013 東京都荒川区西日暮里6-43-8
TEL/FAX: 03-3893-1442
Email: horikawaimono@gmail.com
ホームページ:http://www7b.biglobe.ne.jp/~horikawaimoji/index.html
費用:箸置き(2 個) \5.000、ぐい呑み \6.000 時間:2~3時間

取材・文:小野洋平(@onoberkon) 企画・編集:櫻井寛己(@pirorin39

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